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東京地方裁判所 昭和31年(う)2734号 判決 1956年9月14日

本籍 新潟県中蒲原郡五泉町大字吉沢百二番地

住居 東京都板橋区常盤台二丁目二十四番地

交通協力会会長 近藤順二

明治三十年十二月十九日生

本籍 山梨県東八代郡八代村字南百七十番地

住居 東京都杉並区天沼三丁目七百八十四番地

日本通運株式会社総務部付 古屋良平

明治三十年六月二十七日生

本籍 東京都中野区新井町四百九十二番地

住居 同都同区野方町一丁目六百九十二番地

日本電波タイヤ株式会社取締役 早瀬大介

明治四十二年九月十三日生

右被告人等三名に対する商法違反被告事件につき当裁判所は検察官押切徳次郎出席し審理を遂げ左の通り判決をする。

主文

被告人近藤順二を懲役一年に、同古屋良平及び同早瀬大介を懲役一年六月に各処する。

但し、被告人等に対し本裁判確定の日から何れも二年間右刑の執行を猶予する。

訴訟費用中証人福島純一に支給した分は被告人近藤順二の負担とし、その余は全部被告人等三名の連帯負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人近藤順二は大正十三年京都帝国大学法学部卒業後鉄道省に入り、累進して鉄道監となり、昭和十九年十一月運輸通信省を退職後日本通運株式会社法により設立された日本通運株式会社の理事に就任し、同二十五年一月同法の廃止により通運事業及び之に附帯する事業等を目的として設立された日本通運株式会社の常務取締役に就任し、同二十七年十一月迄の間、社長を補佐して会社の業務を分掌すると共に、一面同期間、同会社東京支社長として社長の命を承け同支社の業務全般を掌理し所属社員を指揮監督する職務権限を有していた者、

被告人古屋良平は家業たる運送業に従事していたが大正七年上京して運送業喜和合名会社に入社し、数次の企業合同の結果昭和十六年十月日本通運株式会社秋葉原支店長代理となり、同二十一年二月同会社東京支社経理部長に昇進し、引続き同二十六年八月十五日迄同部長として支部長の命を承け主計課、会計課、用品課等に分属する部務を掌理していた者、

被告人早瀬大介は昭和七年大倉高等商業学校を卒業後東京合同運送株式会社に入社し、企業合同の結果昭和十六年十一月日本通運株式会社東京支社勤務となり、同二十一年十二月同支社主計課長に昇進し、引続き経理部長の命を承け同支社の予算及び決算に関する事項、資金計画に関する事項、所管店所の資金の収受に関する事項、経理事務につき投資会社との連絡に関する事項等主計課の事務を掌つていた者であるが

第一、被告人等三名は、昭和二十六年三月末頃、被告人等の部下に当る同支社経理部主計課資金係長北沢一郎が昭和二十五年四、五月頃から擅に支社の資金数千万円を、当時日本国有鉄道に清罐剤の納入をしていた日本特殊産業株式会社の代表取締役猪股功及び右北沢が被告人等に内密で取締役に就任し、その経営に参与していた三宝工業株式会社(同社は当時特別調達庁に厨房用電気レンヂを製作納入していた)等に浮貸をしてその内三百万円位が焦付き未回収となつていることが発覚し、同支社総務部考査課において調査を開始したところ、右の如き回収困難金は合計金千五百万円にも上ることが判明したため、同人の監督責任者としてその善後策に苦慮していた。

然るところ同年四月初頃、被告人等は東京都中央区銀座西一丁目三番地の日本通運株式会社東京支社において、北沢一郎の依頼を受けた猪股功の来訪を受け、同人から自分が右千五百万円の焦付きを責任を以て補填するから北沢の処分は寛大にされ度い旨の申入を受け、続いて同年五月十日頃同人から中央区宝町三丁目六番地の同支社分室において、右事故金の補填を引受けるについては自分の経営する日本特殊産業株式会社に対し事業資金として北沢の事故金千五百万円の倍額程度の融資をされ度くその収益によつて返済する旨の懇請を受けた。そこで被告人近藤は被告人古屋及び同早瀬に対し経理面で技術的にそれが可能なら右申出に応ずべき旨指示し、被告人早瀬は被告人近藤の右意図が猪股に対する融資が支社の事業運営に支障を来さず、且右融資を本社に内密にすることができるなら融資してもよい趣旨と解し、被告人近藤に対し日本通運株式会社の投資会社である朝日自動車株式会社と小切手交換をし、同会社の小切手を以て数回に分割貸付けることを進言した。

茲において被告人等三名は、北沢一郎が前記の如く不法に社金を浮貸し同社の事故事例としては未曽有の多額の回収困難金を招来したのであるから、支社長である被告人近藤において速かに本社に対し右事故を報告し、何分の指示を仰ぐべき職務上当然の義務があるに拘らず、自分等の監督上の責任を回避し、日本通運株式会社本社に対する面目信用失墜の事態を免かれる目的を以て隠密の間に前記焦付きによる事故金を補填することを企て、猪股功の右申出を受諾することとした。而して斯かる多額の融資をなすについては支社長として本社に対し経伺承認を受けた上これをなすべき社規上の義務あるのみならず、又仮りに右猪股の融資の申出に応ずるとしても、斯かる多額の融資額に上る場合は特に慎重を期し、相手方の事業状態、資力、信用程度等を精査し、且つ確実十分な担保の供与を受ける等、会社のため損害の発生を防止するために万全の措置を講ずべき職責あるに拘らず、右の如き職責を尽くさず、その任務に違背し、被告人近藤が一面識あつたに過ぎぬ猪股功の右申出をたやすく受諾し、何等確実な担保をも差入れさすことなく三名共謀の上、日本通運株式会社の投資会社である朝日自動車株式会社に対する支払又は融資に仮装して帳簿上虚偽の記載をし、隠蔽手段を講じて日本特殊産業株式会社に融資することを決意し、被告人早瀬において別紙第一犯罪一覧表記載の通り昭和二十六年五月二十四日から同月二十八日迄の間三回に亘つて、東京都中央区銀座西一丁目三番地の当時の日本通運株式会社東京支社等において、日本特殊産業株式会社に対し合計金二千七百万円を振出人富士銀行銀座支店及び千代田銀行銀座支店の小切手各一通、及び朝日自動車株式会社と小切手交換によつて得た同会社専務取締役酒井右衛振出し名義の小切手七通を交付して貸付け、以て日本通運株式会社に対し同額の財産上の損害を与え、

第二、被告人古屋良平、同早瀬大介は昭和二十六年六月上旬に至り前記北沢一郎が別途に支社の資金二千三百四十万円を前記三宝工業株式会社に不法に浮貸し、回収困難に陥つている事実が発覚したので同人の監督責任者としてその善後策に苦慮していたところ、猪股功から被告人早瀬に対し前同様、右の事故金の補填を引受けるにつき右同額程度の事業資金を融資され度い旨の要請があり、更に同年六月中旬頃から同年八月上旬頃迄の間数回に、同人から前記日本特殊産業株式会社或は当時猪股功が事実上北沢一郎から引継ぎ経営をしていた三宝工業株式会社に対する事業資金等の名下に一回四百万円乃至二千万円前後の融資の要請があつたので、同被告人はその都度被告人古屋と協議した上、前記の如き北沢の事故は速かに支社長を通じ本社に報告し、その指示を仰ぐべき職務上の義務があるに拘らず、自己の部下監督上の責任を回避し、且日本通運株式会社本社に対する面目信用失墜の事態を免かれる目的を以て隠密の内に右焦付きによる事故金を補填することを企て、右申入を受諾し、尚斯かる多額の融資をなすについては支社長を通じ本社に対し経伺承認を受け、且支社長の指示をまつべき社規上の義務あるに拘らず右手続を履践せず、又斯かる融資をなすに当つては相手方の事業、資力、信用程度を精査し、確実十分なる担保の供与を受ける等会社のため損害の発生を防止するため万全の措置を講ずべき職責あるに拘らず、その職責を尽くさずその任務に違背し、前同様両名共謀の上、被告人早瀬において別紙第二、犯罪一覧表記載の通り、同年六月八日から同年八月三日迄の間九回に亘つて中央区宝町三丁目六番地の当時の日本通運株式会社東京支社分室等において猪股功に合計金七千二百万円を、何れも朝日自動車株式会社と小切手交換によつて得た同会社専務取締役酒井右衛振出し名義の小切手十一通を交付して貸付け、以て同会社に対し同額の財産上の損害を与えたものである。

(証拠の説明及び弁護人等の主張に対する判断)

冒頭記載の事実は≪省略≫

によつて認め

判示事実中

第一、北沢一郎が判示の如く、擅に社金を貸付け融資して回収困難金を生じたところ、猪股功より右事故金を引受け補填するにつき自己の事業に対し融資されたい旨懇請を受けた結果、被告人等三名、或は被告人古屋、同早瀬の両名は夫々共謀の上、朝日自動車株式会社に対する支払、又は融資に仮装して同人に対し判示の如く社金を融資したという外形的事実については、≪省略≫

によつて認め、

第二、(背任の目的)被告人等の本件猪股に対する融資は北沢一郎に対する部下監督上の責任を回避し、日本通運株式会社本社に対する被告人等の面目、信用失墜の事態を免かれる目的に出たものであることは、後段説示のように証拠によつて認められる次の諸事実を綜合してこれを認めることができる。即ち

(1)  昭和二十六年三月末北沢一郎の社金三百万円浮貸し事故が発覚し、調査の結果事故金額は逐次増加しその合計は日本通運株式会社としては未曽有の金三千八百万円位に達したが、被告人等は本社に対し右事故を逐次報告する義務あるに拘らず速かに右事故の報告をなさず、且つ秘密裡に事故金の補填をすることを図り、本社に対し経伺承認の手続を経ることなく猪股に対し判示の如き融資をするに至つた事実。而して

右の事実は≪省略≫

によつてこれを認め、

(2)  被告人等が北沢一郎の事故金額につき本社に対し虚偽報告をなし、更に猪股功に対する融資も回収困難の事情に立ち到つて始めて早川社長に事情を打明けた事実、而して

右の事実は≪省略≫

によつて認め、

(3)  融資の手段として朝日自動車株式会社との間の支払・貸付けを仮装し帳簿上虚偽の記載をして右融資の事実を隠蔽している事実、而して

右の事実は≪省略≫

によつてこれを認め、

(4)  被告人等が本件事故が労働組合に知れることを憂慮していた事実、而して

右の事実は≪省略≫

によつてこれを認め、

以上(1)乃至(4)の諸事情と、後段第三に説示のように、被告人等が本件融資に際して猪股の資力信用につき十分の調査を遂げず、且確実な担保の提供を受けないで同人の懇請をたやすく容れ放漫な貸付をした事実とを彼此綜合すれば、被告人等は会社に対する誠実を欠き、北沢の事故に関する責任追及を怖れ、汲々として自己等の会社に対する信用面目の維持に努めこれが根本動機となり本件融資を敢行したものであることが認められるのである。

弁護人等は、本件融資は被告人等が只管会社の利益を図る目的からしたものであつて被告人等の個人的利益は勿論猪股功の利益を図る目的もなく、況んや会社に損害を加える目的は全く無かつたものであるから、犯罪は成立しないと主張する。元来商法第四百八十六条第一項の罪は、会社において特別の地位にある者についての特別の背任罪の規定を設けたものであり、刑法第二百四十七条の規定に対し、特別法の関係に立つものであるが、その趣旨においてはこれと同一であり、他の構成要件についても刑法背任罪の規定におけると同様に解すべきである。従つて同条の犯罪が成立するためには、自己又は第三者の利益を図り、又は会社に損害を加える目的が特にその行為の動機となることを要するのであつて、斯かる目的を欠くときは仮令その任務違背行為により会社に財産上の損害を加えたとしても同条の罪は成立しないこと勿論である。ところで本件被告人等が会社に損害を加える目的を有していたとは到底認められず、又特に第三者たる猪股功の利益を図ることが動機となつて本件融資行為に出たものでもないことは叙上認定の事実経過に照して極めて明白である。そこで問題は被告人等が会社のため北沢一郎の事故金を回収補填しようとしたことが本件融資行為における背任の目的を欠如せしめるものであるかどうか、という点である。

即ち当裁判所は前段事実摘示のように、被告人等が本件融資をなすに至つたのは被告人等の会社に対する信用面目を維持する目的からであつたことを認定したのであるが、被告人等がその融資により前記事故金の回収を図ろうとしたものであることもまたこれを認めることができるのであり、このようように会社の利益を図る目的と自己(又は第三者)の利益を図る目的とは必ずしも常に背反的のものとは限らず、その両者が同時に競合することもあり得べく、本件の場合の如きはまさにその適例に属するというべきである。斯かる場合常に犯罪の成立を否定するものとすれば多くの場合は罪を免れて法が背任罪の規定を設けた趣旨を沒却することとなるべく、又これに反し常に犯罪の成立を肯定するものとすれば、罪に問われることを怖れて会社の活発な営業活動が制限され、会社の事業を阻害する結果となるだろう。故にこのような目的の競合する場合はそのいずれが主たるものであるかにより背任の目的の存否を判断すべきであり、若し主動的動機が自己(又は第三者)の利益を図るにあるならば、仮令同時に、又は附随的に会社の為にする目的があつたとしても、その行為は商法が会社の役職員に対し会社のため誠実に奉仕すべきことを期待する法律の精神に反するものであり、正に本条による処罰を受けるに値するものと謂わねばならない。果して然らば、叙上認定のように被告人等が本件融資により事故金の回収補填を図ろうとしたことは事実であるが、その根本動機において自己等の会社に対する信用、面目の維持が意図され、それが主たるものであつた本件においては、被告人等に背任の目的があつたものと断定せざるを得ないのである。弁護人等が援用する大正三年十月十六日及び大正十五年四月二十日の大審院判例は、いずれも行為者が専ら本人の利益を図つた場合の事例に属するものであり、本件に適切なものとは謂えず、寧ろ、主として株主に配当利益を与える目的に出て、旁ら銀行の信用を維持する為にする所謂蛸配当の事例に関し、銀行の取締役につき背任罪の成立を認めた昭和七年九月十二日大審院判例が本件の参考となるものと考える。

第三、(行為の背任性)被告人等の本件猪股功に対する貸付融資は会社の定款及び業務規定に違反し、通常の業務執行の範囲を著しく逸脱するものであり、信義誠実の原則に照して事務管理者が会社に対して負担する義務に反するものであることは、後段説示のように証拠によつて認められる次の諸事実を綜合してこれを認めることができる。即ち

(1)  定款及び業務規定違反の事実、而して

右の事実は≪省略≫

によりこれを認め

(2)  被告人等の猪股功に対する貸付は会社業務の通常過程における貸借と著しく趣きを異にし、相手方の資力、信用等につき十分なる調査をなさず、確実十分なる担保の供与も受けず、弁済期限の確約もなく、猪股に事業資金を提供し、その事業による利益金を当にしてその内から融資額及び事故金額の補填を受けんとしたものであつて、被告人等の業務の範囲に属しない事実、而して

右事実は、≪省略≫

によつて認め、

(3)  被告人等が本件猪股功に対する融資を朝日自動車株式会社との間の支払及び融資に仮装した事実、而して

右事実は≪省略≫

により認め、

(4)  本件融資は北沢の事故の原因ともいうべき当の相手方である猪股に対してなされたものであり、正に北沢の任務違背の轍を踏んでいるものと認められる事実、而して

右の事実は≪省略≫

によつてこれを認め、

(5)  被告人等が本件融資をなすに当り、猪股功から担保の意味合で受取つた日本交通公社会長高田寛振出しの約束手形は偽造のものであり、国鉄より受取るべき清罐剤代金につき代理受領権を附与する旨の念書は、それ自体で何等斯かる権利を発生するものでなかつた事実、而して

右の事実は≪省略≫

によつてこれを認める。

弁護人等は、日本通運株式会社支社長委任及び報告事項第一条十二の「一件五万円以上の投資及び融資は支社長の専決処理を許さざる」旨の規定は、終戦後の経済の激変により死文化したもので、被告人等の本件融資は経伺承認を受くることを要しないもので、従つて本件融資は被告人等の任務に背いたものでないと主張するが、既に前記証拠で明かな如く同規程に定める五万円の金額はその後の経済事情の変動により実情に即しないものとはなつたが、貨幣価値の変動に応じて右金額を逐次改定することも困難であつたので規程は規程としてそのままとし、支社長の善意と良識に期待し、更に広範囲に亘つて支社長の専決処理することを許していたものであるが、決してそれは無制限の権限ではなかつた。而して本件の場合は第一、の事実のみについても二千七百万円に上る融資であるから、これは当時の貨幣価値の変動を考慮に入れても、且つ支社長委任及報告事項第一条に列挙した他の各号と対照しても、たやすく一支社長の専決できる範囲ではなく、然かも当時の情況としては本社に対し経伺承認を受ける遑のない程緊迫した事情も存在しなかつたのである。果して然らば被告人等の本件貸付は前記支社長委任及報告事項の趣旨に反する行為と謂わなければならないのみならず、既に前段説示に明らかな如く本件融資行為は猪股に事業資金を供給し、その事実上の利益を期待して事故金及び融資金額全額の補填を図ろうとしたもので、右金額の補填は猪股が事業上相当の収益を上げることを前提としており、寧ろ冒険的取引に類するものとすらいえるのであつて、然かも斯かる放漫な多額の融資行為は被告人等の通常の業務の範囲を著しく逸脱するもので権限の濫用と謂わなければならない。よつて本件行為が任務違背に当らぬとする主張はこれを採用することができない。

第四、被告人等が本件につき任務違背の認識があつた事実は≪省略≫

に照し認める。

第五、最後に本件財産上の損害の事実及び被告人等のこれに対する認識の点については以上の説示の如く多額の社金を確実十分なる担保もとらず猪股に融資したものであるからそれによつて回収不能の結果を俟つまでもなく、右貸付金に相当する財産上の損害を会社に蒙らしめたものであり、然もその事実の認識があつたことは明らかである。

よつて判示事実は全部その証明があつたものである。

(法令の適用)

法律に照すと、被告人等の判示各所為は商法第四百八十六条第一項、罰金等臨時措置法第二条、刑法第六十条に該当するので、所定刑中懲役刑を選択し、被告人古屋良平、同早瀬大介の判示第一、第二、の各所為は同法第四十五条前段の併合罪であるから同法第四十七条、第十条に則り、重い第二、の罪につき定めた刑に法定の加重をし、各その所定刑期の範囲内で被告人近藤順二を懲役一年に、同古屋良平及び同早瀬大介を懲役一年六月に各処するが、その情状について考えると、被告人等が会社に与えた損害は多額であるとはいえ右の所為は何れも被告人等の金銭的利慾を目的としたものではないばかりでなく猪股功が融資の謝礼として被告人等の自宅に持参した株券を直ちに突返えした等のこともあり、之により何等金銭的利得を得ていないこと、その後被告人等の努力により回収も進み会社においても損害は全部補填されたものとして既に解決済みとして処理されていたこと、被告人等は本件の場合を除き会社に対する誠意と、経営に対する能力と、については会社内部でも高く評価されていた者であつて、本件発生後被告人近藤は既にその職を退き退社し、被告人古屋は部長の地位を退いて目下閑職にあり、同早瀬は傍系の会社に転出を命ぜられ夫々実質的にはその責を負うたこと等、諸般の情況を考慮して右刑の執行を猶予するを相当と考え、刑法第二十五条第一項に則り被告人等に対し何れも本裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。尚、訴訟費用については刑事訴訟法第百八十一条第一項、第百八十二条を適用し、証人福島純一に支給した分は被告人近藤順二の負担とし、その余は全部被告人等三名の連帯負担とする。

よつて主文の通り判決をする。

(裁判長裁判官 岸盛一 裁判官 目黒太郎 裁判官 千葉和郎)

〈以下省略〉

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